第1章 001
「翔太郎、お前まさか…もう…?」
翔太郎の手から携帯電話を奪い、まじまじと画面を見つめる健太の表情が、どんどん険しくなって…いや、現実には”呆気に取られた…と言った方が正しいだろう、表情に変わっていく。
それに対して翔太郎はと言うと、元来の能天気な性格のせいか、健太の感じている不安など全く気にした様子はなく…
「だって金欲しかったし…。それにほら、ここ…」
携帯電話に表示される文字のサイズを拡大すると、そこをわざわざ指でなぞり、健太に読んで聞かせた。
「別にさ、誘拐とか大袈裟なこと書いてあっけど、実際には指定されたホテルに連れてって、指定された時間が来たら解放すれば良いだけの話だろ?」
「それは…、そうだけど…、危なくねぇか?」
格好だけ見れば、翔太郎より健太の方が遥かに大胆に見えるが、実はその逆で…
より慎重派で、気が弱い面も持ち合わせているのが健太だ。
そんな健太の不安に拍車をかけるかのように、翔太郎は更にとんでもないこと言い出す。
「健太が協力してくれたら、大丈夫じゃない?」と…
それには流石の健太も柵から滑り落ちる勢いで驚き、
「ぜ、ぜ、ぜってー、無理! 大体、こう見えて俺、一応芸能人だし…」
普段は”歌のお兄さんなんて恥ずかしい”と、子供向け番組のキャラクターの一人であることを卑下する健太も、この時ばかりは自分は芸能人だと誇張した。