第6章 006
前を向いたまま、榎本には聞こえないよう、小さく舌打ちをする健太と、隣で「あっちゃ〜」と呑気にキャップを被った頭をポンと叩く翔太郎。
ゆっくり健太は振り返ると、今更ながらに顔の半分をキャップで隠し、ワゴンに突っ込んだ掃除道具の中から、清掃用のスプレーと真新しい雑巾を取り出し、わざとらしくキャビネットの上を拭き始めた。
勿論、翔太郎も健太に習ってキャビネットの側面を拭いたり、周囲をホウキで剥いたりと、清掃員らしく振舞った。
そして一通りの掃除を済ませた二人は、手にしていた掃除道具を再びワゴンに突っ込み、
「じゃあ…、これで…。失礼しました」
鮫島に頭を下げた。
「ああ、お疲れ様」
鮫島は二人を見ることなく手をヒラヒラとさせると、居眠りをしたままの大野をチラリと見てから、
「さて、これをどうするか…」
指で顎をスリスリと摩りながら、首を傾げた。
「仕方ありません。このまま寝かしておきましょう」
「そうだな。起き次第すぐに追い出せば良いか…。いや、でもちょっと待てよ? この居眠り男は良いとして、アレはどうする…」
「アレとは…、アレのことですか?」
「お、おお、アレだ…」
「アレは…、警察に任せた方が良さそうですね」
鮫島と榎本が暗号のような会話をしている間、徐々に出入口付近にまで足を進めた二人は、榎本の口から出た“警察”の言葉に、またしても肩を跳ね上げた。