第6章 006
健太の意図を漸く理解したのか、翔太郎がポンと手を叩いて大きく頷く…が、どこか不安を感じた健太は、小さく息を吐き出すと、翔太郎をその場に残し、床に散らばった掃除道具を一つ一つ拾い集め、リネン用のワゴンに突っ込んだ。
鮫島は勿論だが、謎の男榎本に怪しまれないよう部屋から出るには、清掃員に徹する必要があると健太は判断したのだ。
健太は掃除道具を積んだワゴンを入口ドア付近まで推し進めた。
後はタイミングを見計らって翔太郎に合図を送るだけ、そう思った健太は、ワゴンのハンドルを握ったまま、その時を待った。
そして、
「社長、ちょっと宜しいでしょうか」
榎本が鮫島を部屋の奥、寝室部分になっている場所に呼びつけたと同時に、健太の動きをジッと見ていた翔太郎に、顔をクイッと上げて合図を送った。
すると、健太の合図をしっかり受け取った翔太郎は静かに腰を上げ、尻のポケットに捻じ込んであったキャップを目深に被った。
それを見て健太も同じようにキャップを被り、ゆっくりとワゴンを前に押し進めた。
一瞬、ワゴンのタイヤがキッと軋んだその時、
「まだ掃除が済んでいないようですが」
背中から声をかけられ、二人の肩が同時にビクンと跳ね上がった。