第6章 006
二人の額に嫌な汗が浮かぶ。
ワゴンの押手を握った手も、額と同様に汗で濡れている。
今ここで警察が介入することがあれば、間違いなく二人の立場は危うくなる。
大野に対する拉致監禁に、鮫島ホテルズの清掃員を装った不法侵入、最悪弘行の殺人まで疑われかねない。
そうなれば、報酬を得ることはおろか、二人は暫く塀の中…なんてことも考えられる。
それだけは勘弁だ!
健太はブルンと頭を振ると、汗ばんだ手をドアノブに手をかけた。
よし、二人が大野に気を取られている、その隙に…
榎本が現れるまでは、ピクリとも動かなかったドアが、若干の抵抗を見せながら開きかけた、丁度その時…
「お待ちください」
またしても榎本に呼び止められた。
「カードキー、お忘れじゃないですか?」
口元を僅かに動かしただけで、その他は一切動かさない…、言うなれば“無”に近い表情の榎本が、キースイッチに刺さったままのカードキーを指さした。
「あ、ああ…、本当…だ…」
翔太郎はすぐさまキースイッチからカードキーを引き抜くと、それを胸のポケットに突っ込んだ。
そして息をフーッと吐き出し、コクリと小さく頷いた。
「行くぞ」
「おお…」
二人はやたらと強く打ち付ける心臓の鼓動を誤魔化すように、素早い動きでドアを開け放ち、部屋の外へ…出ようとしたが、それは結局叶うことはなかった。
『006』ー完ー