第6章 006
「ねえ、俺、思ったんだけど…」
両腕を組み、神妙な顔で身体ごと健太に顔を寄せた翔太郎を、
「な、何だよ…」
健太が眉間に皺を寄せ睨みつける。
翔太郎の言う“思いつき”は、大抵の場合ろくでもないことを、長い付き合いの健太はよく知っている。
だから今度もきっと、と思ったら自然と顔が険しくなってしまった…らしい。
「ドアも開いたことだしさ、大野さん…だっけ…も、無事誘拐出来たし…、俺らの仕事もう終わりで良くない?」
「それは…、まあそうだけど…。つか、そんなこと今更言われなくても分かってるし…」
そう、健太は翔太郎に言われるよりも前に、同じことを考えていた。
タイミングさえ合えば、行動を起こすことだって考えなかったわけじゃない。
ただ、それをしなかったのは、榎本の存在があったからだ。
勿論、鮫島の存在も気にはなっていたが、それ以上に厄介に思えたのが榎本だった。
「なあ、あの榎本って奴が次アッチ行ったら…」
「アッチって?」
「だーから、アッチはアッチだろうが!」
全く健太の意図を汲み取ろうとしない翔太郎に、内心怒鳴りつけたい程のもどかしさを感じつつも、健太はガックリと肩を落としてバスルームの方を親指だけでクイッと差した。