第6章 006
気持ち良さげに寝息を立てる大野を横目に見ながら、苦笑いを浮かべる翔太郎と、渋い顔をする健太。
二人は、本来ならば至極座り心地の良い筈のソファーの上で、極めて居心地が悪そうに胡座をかいて座っている。
ついさっきまでの、横柄とも言える態度は、榎本の登場によって大きく一変した。
それ程、榎本と言う男は異質とも言える空気を醸し出しているのだ。
そして、鮫島ホテル社長の存在も、決して威圧的ではないものの、二人に緊張を与える存在になっていることは、間違いなかった。
二人は時折顔を見合わせると、翔太郎の手の中で、頻りに点滅を繰り返すプリペイド式携帯電話に目を向けた。
何かしらの通知を受け取った証だ。
健太はこっそり翔太郎を肘で小突くと、それに気付いた翔太郎がウンと頷き、
「あのぉ…、社長…?」
ゴクリと息を飲んでから、鮫島の方に身体を向けた。
「ん、なんだ?」
「ちょっと電話っつーか…、良いですか?」
「ああ、別に構わんが、仕事の話なんだろ?」
言われて翔太郎は暫く考える。
“仕事”と言えば仕事と言えなくもないが、誘拐の請が真っ当な仕事と言えるかどうかは…甚だ疑問だ。
それでも…
一応“仕事”は仕事…だよな?
翔太郎は鮫島に軽く頭を下げると、席を立ち、バスルームへと駆け込んだ。
そこに榎本がいることも忘れて…