第1章 001
翔太郎は、自身の携帯電話に送られてきた差出人不明のメールを、携帯電話の画面に表示させて健太に見せた。
元々口下手な翔太郎だから、口で説明するよりは、その方が正確且つ確実に伝わると判断してのことだった。
「どう…思う?」
メールに目を通し終えた健太から、携帯電話を受け取ると同時に、横にいる健太の顔を覗き込んだ。
健太はついさっき煙草を揉み消したばかりなのに、次の新しい煙草に火をつけようとしていて…
翔太郎はピッと健太の口から煙草を奪い取り、それを二つに折った。
そしてもう一度、
「で、健太はどう思う?」
同じ質問を繰り返した。
すると健太は、煙草を奪われたことに怒るわけでもなく、もともとの猫背を更に丸くして、小さく息を吐き出した。
「どうもこうも…、それぜってぇヤバイ話だろ…」
「やっぱりそう思う…?」
「ったりめーだ。んな誘拐って…、怪し過ぎんだろ…」
健太の言う事はもっともだと、翔太郎自身も思っていた。
仮に冗談だったとしても、”誘拐”なんて言葉が出てくること自体、穏やかではない。
健太が、訝しげに眉をひそめるのも当然だ。
ところが、
「でもさ、報酬100万円で、しかも前払いってさ、美味しい話だと思わない?」
閉じたメールを再度開き、目の前に差し出された瞬間、健太の目の色が変わった。