第5章 005
味覚音痴の鮫島に救われたことでホッとした大野は、簡易キッチンからカウンターチェアを引き寄せ、腰を下ろした。
そして立ちっぱなしの翔太郎と健太にも、三人がけのソファに座るよう促した。
鮫島は、清掃員風情が自慢の高級ソファに腰を下ろすことに、あからさまに嫌悪感を示した。
当然だ、二人が腰を下ろしたソファ…いや、ソファだけじゃない、その部屋にある全ては、社長である鮫島が海外に買い付けに出かけ、自身の目で選んだ物で、安月給の翔太郎と健太には、とても手の届かない高級な物ばかりだ。
そこに、いくら清掃員のフリをしているだけとは言え、二人が座ることを面白く思わないのは、当然のことなのかもしれない。
「あの…ですね、俺思ったんですけど…」
ピリピリとした空気をものともせず、大野が口を開く。
「スペアキーとかって無いんですか? もしあれば、それで外から開けて貰えば、外に出られるんでは…」
「確かに…」
大野の提案に、大きく頷いた翔太郎だったが、依頼人からのメールに、鮫島ホテルてはカードキーのスペアは用意していないらしい、と書いてあったのを思い出し、チッと一つ舌打ちをして膝を叩いた。
そして鮫島も、
「残念だが、それは無理だな。他の部屋はともかくとして、この部屋のカードキーは、部屋の主である俺しか持っていないのだから…」
ふんぞり返った胸で腕を組み、フンと鼻を鳴らした。