第5章 005
「お、お待たせしまし…た…」
大野が鮫島の前にカップを置き、淹れ立てのコーヒーを波々と注ぎ、おそらくは量を間違ったのだろう、コーヒーサーバーに残ったコーヒーを、人数分の湯飲み茶碗に注いだ。
「お二人もどうぞ…」
「あ、ああ、悪いな…」
自分を誘拐した相手に、ついでとは言えコーヒーを振る舞う大野に、翔太郎と健太は呆気に取られていたが、“ここ”に着いてからというもの、水一滴も口にしていなかったからか、喉はカラカラに乾いていて…
翔太郎はテーブルに置かれた湯飲み茶碗を手に取ると、まるで煽るかのようにコーヒーを喉に流し込んだ。
それを見て健太も手に取った湯飲み茶碗に口を付けると、一気に飲み干した。
そして空になった湯飲み茶碗をテーブルに置くと一言、
「ぬるっ!」
「まずっ!」
示し合わせたように顔を歪ませた。
「あ、あれ…? 美味しくなかったですか…、すいません。俺、コーヒーは買った事しかないんで… 」
初めて淹れたコーヒーが不評だったことが、相当ショックだったのだろう、申し訳なさそうに俯く大野。
すると、優雅な仕草でカップを持ち上げた鮫島が、フーフーと息を吹きかけながら、コーヒーをズスッと啜って一言、
「美味い…」
満足気に呟いた。