第5章 005
殺人犯だと信じて疑わない相手に手伝えと言う鮫島の肩に、やれやれと言った様子で健太が手をかける。
すると鮫島は途端に表情を険しくし、肩に乗せられた健太の手を払い除けた。
「新調したばかりのスーツが汚れる。気安く触らないでくれないか」
冷たく言い放ちながら…
健太の手を払った自分の手が、埃で黒くなっていることなど、すっかり忘れて…。
それには健太も一瞬片眉をピクッと上げたが、深呼吸をして冷静さを取り戻すと、首元までキッチリ上げたツナギのファスナーを腰のあたりまで下ろし、上半身Tシャツだけの姿になった。
「そのドア、俺らもさっき何度も試したけど、全然開かなくて…」
「そんな馬鹿なことがあるか…」
「だーから、本当なんだってば…」
「いいや、ありえない。キースイッチが故障した報告は受けていないし、メンテナンスだってこまめに行っている。何より我が鮫島ホテルズでは、世界最高峰のセキュリティシステムを導入している。ドアが開かなくなることなど、絶対ありえない」
自信満々に言って、フンと鼻を鳴らした鮫島は、両手を背中で結んで、部屋の中をウロウロと歩き回った。
そして、ソファにドッカリと腰を沈めると、足と両手を組んだ。