第5章 005
まずい!
このままだと、大野の存在は勿論のこと、謎の死体まで見つかってしまう。
瞬時にそう思った健太は、咄嗟に掃除道具をワゴンに突っ込むと、素早い動きでスーツ姿の男の前に立ちはだかった。
…が、
「何をしている。そこをどきたまえ」
見た目よりも力の強い男の手に肩を掴まれ、呆気なくパーティションの向こう側へと押しやられてしまった。
そして…
「ん? 誰だ、俺のベッドで寝ているのは…。不届きな奴め、起きたまえ」
スーツ姿の男が弘行の身体を揺らした。
勿論、それで弘行が目を覚ますことはない。
「こら、起きないか!」
スーツ姿が男は苛立ったように声を上げる。
その声に、ちんまりと身体を丸め、物の影に隠れていた大野の身体がビクンと跳ね上がり、サイドテーブルの上に置かれた電気スタンドが、ガタンと音を立てて倒れた。
当然、スーツ姿の男の視線は大野に向けられ…
「き、き、き、貴様…、さては泥棒だな?」
その場にいた健太は、男が大野に掴みかかることを想像した。
それは 離れた場所からことの成り行きを見ていた翔太郎も同じで、ワゴンから手を離すと、両手に拳を作り、構えた。
ところが…だ、男は大野に掴みかかるどころか、どんどん後ずさり…、背中が壁に着いたところで盛大な尻もちを着いた。