第1章 001
「話って何…」
耳に宛てた携帯電話から聞こえて来た声は、とても子供向け番組で”歌のお兄さん”なんてしているようには聞こえなくて…
「お前さあ、いい加減煙草止めたら? 声、酷いよ?」
健太が聞き入れることはないと知りながら、翔太郎が健太の歌声が昔から好きだからだ。
勿論健太自身そのことを知ってはいるが、どうしても止められないのは、好きでもない服を着て、歌いたくもない歌を歌って、理想からは遠くかけ離れた姿を演じ続ける自分に対しての、ある種の反発でもある。
上下に纏ったレザーの服もそうだ。
だから毎回のように苦言を呈す翔太郎に対し、
「うるせぇ、俺の勝手だ」
ついついぶっきらぼうな態度をとってしまうのも、決して仕方ないとは言い切れないが、頷ける話ではある。
「で? 話って?」
ブランコの周りを囲うように立てられた柵に尻だけを引っ掛け、携帯電話をパタンと閉じた翔太郎の前に立った健太は、足元に煙草を落とすと、いかついブーツの爪先でそれを揉み消し、翔太郎と同じように柵に尻をかけた。
中学時代から何一つ変わらない光景だ。
ただ一つ変わったところがあるとしたら、二人共学生服に身を包む必要のない、れっきとした”大人になっている”ところだろうか…