第4章 004
漸く止まったと思われた大野の涙が、再び頬を伝った。
大野はそれをサイズの合っていないジャケットの袖で乱暴に拭うと、鼻をズッと吸ってから息を整えるように、スッと空気を吸い込んだ。
「実は、彼は弘行と言って、俺の…その…恋人って言うか、“だった”って言うか…」
泣いたせいなのか、それとも別の理由があってなのか、大野の顔が赤くなる。
「へ、へえ…、恋人…って言うか、“だった”ってことは、元彼…ってことなの?」
「まあ…、そう言うことになんじゃねぇか?」
そう言うことだろ、と問われて大野はコクリと頷くと、一瞬視線をベッドで横たわる死体に向けた。
「弘行とは先月別れたんです」
「そ、そうなんだ? 理由は? 何で別れちゃったの?」
「それは…」
それまで饒舌…とはいかないまでも、どうにかこうにか言葉を絞り出していた大野だったが、弘行と別れた理由を問われた途端口を噤み、下を向いてしまった。
当然、翔太郎は健太に強烈な肘鉄を食らうことになるのだが、当の本人は全く悪びれた様子もなく、
「あ、もしかして弘行さん…だっけ?に新しい恋人でも出来ちゃったとか?」
興味津々に身を乗り出した。