第3章 003
「落ち着けって!」
健太が振り回すホウキを、一瞬の隙をついて掴んだ翔太郎は、健太の手からホウキを取り上げ、ソファの向こうまで放り投げた。
身を守る術を失くした健太は、両手に拳をつくり胸の前で構えて見せるが、その手はブルブルと震えていて…
「あのなぁ…」
呆れたと言わんばりに溜息を落とした翔太郎は、被っていたキャップを外すと、
「オレが人殺すような人間に見えんのかよ…」
手の中でクシャッと丸めた。
「そ、それは…見えねぇけど、そんなの分かんねぇだろ…」
そもそも自分を誘ったのは、翔太郎自身が犯した罪を、自分に擦り付けるためなのかもしれない。
健太は心の中で思ったが、喉まで出かかった言葉を、寸でのところで飲み込んだ。
もし健太の考えが当たっていた場合、図星を指された翔太郎が激高するかもしれないと、健太は考えたのだ。
「お、俺も殺すのか?」
「はあ? お前さっきから何言ってんの?」
「だ、だから…っ、お前が殺したんだろ? それで、俺のことも…」
「あのさあ、俺は誰も殺してないから…」
「じゃあ誰が…?」
「そんなのこっちが知りたいよ…」
翔太郎はもう一度溜息をつくと、その場に胡座をかいた。