第3章 003
冗談だと…
スーツアクターと言っても、一応は役者の端くれだ、健太を驚かそうと、翔太郎が下手な芝居でもしているんだと、そう思った…いや、そう思おうとした。
しかし、翔太郎の指差す先にある“モノ”を目にした瞬間、健太はそれが翔太郎の芝居なんかではないことに気付き…
「う、嘘…だろ…? お、おい、どういうことだよ…」
翔太郎の腕が足に絡み付いていることも忘れ、後ずさった健太は、翔太郎と同じくその場に腰を抜かした。
「ま、まさか、お前が…?」
そうだ、先に部屋に入ったのは翔太郎だ。
十分とは言えないが、後から入った健太に比べれば、犯行にかける時間はあった筈…
直感的に“犯人は翔太郎”と判断した健太は、尚も縋り付いてくる翔太郎の手を払い除け、腰を抜かしたままで壁際まで後ずさると、落ちていたホウキを手にした。
「や、やめろ、俺まで殺すつもりか…」
ホウキを武器にでも見立てているのか、まるで剣のように構えると、健太はにじり寄ってくる翔太郎に向けて、乱暴に振り回した。
その顔は酷く怯えている。
当然だ、目の前にいるのは、親友の仮面を被った殺人犯なのかもしれないのだから…
もっとも、健太に殺人犯だと思われているとは露とも知らない翔太郎は、
「お、おい、ちょっと…何言ってんだよ…」
今にも頭上に振り下ろされそうなホウキを避けながら、首を傾げた。