第3章 003
“0号室”と書かれたプレートがかけられた部屋は、見取り図でははっきりとは分からなかったが、丁度スタッフ専用の出入口を抜けた所にあった。
同じフロアにはフロントもあれば、喫茶室や、ホテルのオリジナルグッズなどを扱うちょっとしたショップまであり、しかもその付近にはご丁寧に防犯カメラまで設置されている。
とても人目を避けられる状況にないことは、翔太郎にも健太にも容易に判断出来た。
「どうする…?」
ここに来て急に怖気付いたのか、翔太郎が弱音を吐く。
カードキーを持つ手を心做しか震えているように見える。
健太は「チッ」と小さく舌打ちをすると、
「貸せよ…」
翔太郎の手からカードキーを奪い取った。
内心では、健太も翔太郎と同様、今すぐにでもこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
そもそも健太はこの話には乗り気ではなかったし、ある意味翔太郎の脅しに負けただけで、翔太郎程金に困っているわけでもなかったのだから、そう思うのも当然のことだ。
最終的には、翔太郎に全ての罪を押し付けて、自分は知らぬ存ぜぬを通せば良いとまで考えていた。
ところが…だ、翔太郎のあまりに頼りない様子を見ているうち、少しづつ健太の考えが変わった。
翔太郎に任せておいては、どれだけ綿密に計画を立てたところで、失敗に終わる。
そうなれば、翔太郎の身は勿論のこと、健太の身の安全だって保証は出来ない。
計画を成功させるためには、俺がしっかりしないと…
健太はいつしかそう思うようになっていた。