第3章 003
「とりあえずこの見取り図に引かれた赤線通りに進みゃ良いんだな?」
翔太郎には任せておけないと、健太はワゴンの上から見取り図をひったくると、そこに書かれた図面を食い入るように見つめ、指示されたルートを頭の中に叩き込んだ。
昔からそうだ、健太は学校の勉強はからきしだったが、記憶力だけはずば抜けて良かった。
特に、一度見た景色であったり、人の顔であったり、名前は忘れても顔だけは忘れたことがない。
それは絵(漫画が殆どだが…)の類いに対しても同じことだ。
健太は一通り見取り図上でルートを確認すると、見取り図を綺麗に畳直してから、翔太郎の手に戻した。
「もう良いのか?」
「ああ。つか、急ぐぞ」
もしリネン用ワゴンの中でターゲットが目を覚まし、騒ぎでもされたらひとたまりもない。
健太は掃除道具を持ち直すと、先に立って翔太郎の前を歩き始めた。
偽装された従業員パスを使って警備員室を抜け、いよいよホテル内部へと入った二人は、元々目深に被っていたキャップを更に深く被り直した。
幸い、チェックアウト直後の時間帯とあってか、すれ違う従業員達は皆、次の客を迎えるための準備に忙しそうにしていて、二人のことなど全く気にしていない。
その中を、二人は緊張に胸を高鳴らせながら、指定された部屋「0号室」を目指した。