第3章 003
手にしたカードキーを、ドアに設置されたカードリーダーにスライドさせる。
すると、カチン…と何かが外れたような音がして、二人は顔を見合わせた。
そしてお互い視線を合わせたまま小さく頷き合うと、掃除道具を片手に一纏めに下健太がドアノブに手をかけた。
目深に被ったキャップのツバを少しだけ持ち上げ、辺りに視線を巡らせてから、健太がドアノブを引く。
幸い辺りに人はいない。
丁度真向かいに位置するフロントでは、フロント業務をこなすホテルマンが二人程いるが、どちらもチェックアウトする客の相手に忙しそうで、清掃員が何をしていようと、気にしてはいられない様子だ。
「今のうちだ」
健太は、ワゴンを押す翔太郎を先に室内へと押し込むと、続いて自分を室内へと足を踏み入れた。
手にさしていたカードキーを、カードキースイッチに差し込んだ。
薄暗かった室内に明かりが灯り、健太は手にしていた掃除道具を床に下ろし、漸く一息ついた。
キャップを外し、髪を掻き上げると、汗…だろうか、しっとりと濡れているのが分かって、健太はフーッと長く息を吐き出した。
その時、部屋の奥で何かが倒れる音がして…
「…ったく、あんま騒いでんじゃねぇよ…」
てっきり翔太郎がワゴンを壁か何かにぶつけたんだと思った健太は、キャップを尻のポケットに突っ込み、やれやれとばかりに部屋の奥へと足を進めた。