第3章 003
内心不信感を感じながらも、健太は両手に掃除道具を、翔太郎はリネン用のワゴン押し、地下駐車場から直接建物内に入り事が出来る通用口に向かった…が、ふと思い立って健太は足を止めた。
「なあ、俺ら“一応”従業員…ってこと…なんだよな?」
「まあ…、そういうことだよね」
翔太郎は、丁度ホテルのロゴが入った胸元の名札に視線を落とした。
勿論、二人の身元がバレないよう偽名ではあるが、依頼人がご丁寧にも用意してくれた物だ。
因みに、翔太郎の手には二人分の従業員パスまで握られている。
「だったら…、普通はアッチ通るんじゃねぇか?」
掃除道具で両手が塞がっている健太は、通用口とは別の、従業員用通用口を顎でしゃくって見せた。
「あ…」
翔太郎は、作業着と一緒に同梱されていたホテル見取り図を思い出していた。
そこには、確かに従業員用通用口に赤い印がしてあって、そこから目的の部屋「0号室」に向かうまでの道順が、しっかり矢印で記されていた。
翔太郎はポケットから見取り図を引っ張り出すと、シーツに覆われたワゴンの上に広げた。
「ちょっとコレ見てくれ」
言われて健太はどれどれと覗き込むが、すぐに呆れ顔に変わる。
「つか、“見てくれ”じゃねぇだろうが…」
健太は翔太郎の、行き当たりばったりの計画性の無さに、溜息と同時にガックリと肩を落とした。