第3章 003
特に会話を交わすことなく、車は巨大なビルの地下駐車場へと吸い込まれて行く。
街…いや、国内…いやいや、世界でも有数のホテルチェーン、鮫島ホテルの地下駐車場だ。
翔太郎は指定された番号に車を停めると、素早く着ていた服から作業着に着替え、同色のキャップを目深に被った。
そして一瞬健太の視線を交わすと、キーを鍵穴に差し込んだまま車を降り、車の後部へと回った。
ハッチバックを上げ、予め積んであったリネン用のワゴンを下ろした。
「よし、ここに下ろすぞ」
「お、おお…」
積み込んだ時同様、二人がかりで寝袋に包まれた大野を、キャスター付きのワゴンに押し込み、上からクシャッと丸めた布をかければ、そこに人が押し込まれているとは、誰も思わないだろう。
「部屋番は?」
健太に聞かれて、翔太郎はポケットからカードキーを取り出す。
「えっと…、0号室…?」
「はあ? 何だよそれ。他に何も書いてねぇのかよ…」
「いや、何も…」
自分の目で確かめろとばかりに差し出されたカードキーを受け取った健太は、カードキーを裏返したり表に返したりを繰り返すが、結局翔太郎の言う“0号室”以外の文字はどこにもなくて…
「何か良く分かんねぇけど、鍵があるってことは、当然部屋もあるってこと…だよな?」
「そう…だろうね…」
二人は顔を見合わせ、殆どタイミングを違えることなく首を捻った。