第2章 002
目的の場所を前にして、どうしても一歩が踏み出せずにいる健太の中で、プリペイド式携帯がブルルッと震えた。
メールの送り主は確認するまでもなく分かっている。
どうせ健太の戻りが遅いことに焦れた翔太郎しかいない。
そもそも、健太のポケットにある携帯電話の番号を知っているのは、唯一アドレス帳に登録してある翔太郎と、もう一人…
プリペイド式携帯電話の契約者でもある依頼主しかいないのだから。
健太は”チッ”と一つ舌打ちをすると、
「うっせーな…、分かってるつーの…」
忌々し気に呟いてから、漸く床に貼り付いたみたいになっていた足を動かした。
ロッカーの前でたむろする女子高生を避けながら、翔太郎から受け取った鍵に記されたのと同じ番号のロッカーを探す。
あった…
健太は手元にある鍵と、ロッカーの番号を再度確認すると、目的のロッカーの前で化粧をしていた女性を押し退け、手にしていた鍵を鍵穴に差し込んだ。
健太に押し退けられた女性は、押された衝撃で口紅がはみ出したようで、眼光鋭く睨みをきかせたが、そんなことを構っている余裕は、健太には一切ない。
何しろ、心臓は有り得ない程早く鼓動するし、差し込んだ鍵を回そうにも、指が震えて力が入らないのだから。