第9章 009
地下駐車場に停めたレンタカーに乗り込んだ二人は、特に会話をすることもなく、真っ先に清掃員用のツナギを脱ぎ、着替えを済ませた。
そして、たった一本残っていたタバコに火を付けると、それを交互に吸いあった。
ワゴンの中は、あっという間に煙で満たされた。
それから漸く、
「とりあえず帰るか…」
翔太郎がシリンダーを回し、アクセルを踏み込んだ。
車は薄暗い地下から出て、地上へと出ると、どこに立ち寄るでもなく、レンタカー会社へと向かった。
料金は前もって依頼人でもある大野が支払っていたから、二人の懐が痛むことなく済み、二人はツナギと、健太の変装用にと準備したメイド服一式詰め込んだボストンバッグを手に、漸く帰路についた。
その間も二人は特に会話をすることもなく…
健太の自宅近くの公園に着いた頃には、二人共ヘトヘトに疲れ切っていた。
「じゃあ…ね…」
「おぅ…、またな…つか、俺ら本当に大丈夫なんだよな?」
「何…が?」
「だから…、俺らが捕まることはないんだよな?」
「ああ、なんだそのこと? それなら成瀬さんが力になってくれるって言ってたし、大丈夫なんじゃない?」
どこまでも楽天的な翔太郎の言葉に深い溜息を落としつつも、心身共に疲れ切っていた健太は、翔太郎の言葉を信じることにした。