第9章 009
その後、翔太郎と健太は何度か事情を聞くために警察に呼ばれたが、成瀬の弁護のおかげもあってか、二人が罪に問われることは一切なかった。
驚いたことに、弘行を殺した鮫島も、そして偽装誘拐の計画を立てた大野も、証拠不十分として無罪放免されたことを、その後のニュースで報じられた。
あれだけの証拠と供述がありながら何故…
二人は当然首を傾げたが、深く追求することはしなかった。
事前に振り込まれた金と、後日振り込まれた金を返却しなくても良いと言う条件で、口を噤むことを約束されたからだ。
二人は金を手にする代わりに、「0号室」で起きたこと全てを、記憶の奥底に仕舞い込んだ。
セキュリティのプロでもある榎本でさえ、決して開けることの出来ない、頑丈な鍵をかけて…
勿論、事件の真相を黙っていることに、罪悪感が全く無かったわけではない。
寧ろ罪悪感でいっぱいだった。
それでも二人が黙秘を選んだのには、自身の保身のため…なのだろう。
ただ、二人が大野誘拐に使ったツナギと、翔太郎に送られて来たメールの文面だけは、処分することはしなかった。
二人がそれをどう利用するかは…
そして、「0号室」にあった筈の証拠品の数々がどこに消えてしまったのか…
それは…
『誰も知らない』
ーENDー