第9章 009
「弘行が零治さんに何を話したかは、正直わかんないけどさ、ただ零治さんも馬鹿じゃないから、見ず知らずの相手の言うことなんて、そう簡単に信用するわけないって思ってたんだけどな…。まさか殺しちゃうとはね? 流石にそこまでは予想してなかったわ(笑)」
「智、お前…」
鮫島の顔から見る見る色が失せ、とうとうその場に崩れ落ちてしまった鮫島は、握った拳を毛足の長いカーペットに叩き付けた。
「では、大野さん自身は、弘行さんが殺されたことは知らなかったと?」
「うん。弘行が乗り込んだことは、事前に弘行からメール貰ってたから知ってたけど、零治さんが殺したってことまでは知らなかった。だから、コイツらにここに運ばれて、弘行の死体見っけた時は、マジで心臓止まんじゃねーかってくらい驚いてさ(笑)」
「では、ここに連れて来られて、初めて弘行さんの死を知ったわけですね?」
「そう。だから俺は、弘行殺しには無関係なの」
あくまで自分は無実だと訴える大野に、
「お前…っ!」
とうとう鮫島の怒りが爆発する。
「お、俺はだな、お前のためを思って…」
鮫島は大野の胸倉を掴むと、今にも殴り掛かる勢いで拳を振り上げた…が、振り上げただけで、その拳が振り下ろされることは、とうとうなかった。