第9章 009
「どういうことです?」
成瀬の目が、一瞬鋭く光る。
「まず、誘拐の計画を立てたのは俺。身代金っていうの?それが目的だったのも事実。ほら、零治さんて超金持ちじゃん? だから、ガッポリふんだくって、それで会社から盗んだ金返そうと思ったわけよ」
大それたことをしておきながら、驚く程軽い口調で語る大野に、翔太郎と健太の冷めた視線が向けられる。
それでも大野は一切悪びれた様子もなく、くたびれたジャケットを脱ぐと、クスリと笑ってから、
「でもさあ…」
再び話し始めた。
「弘行の奴、零治さんからふんだくった金、独り占めしようとしてさ、勝手に零治さんとこ乗り込んでっちゃうんだもん、マジで焦ったよ」
「それは、大野さん自身が、鮫島社長を騙していることを知られたくなかったから…ですか?」
「うーん、それもあるんだけど…つか、俺が零治さんのこと好きなのは事実だよ? でも、流石に会社の金横領してるって知られたらさ、いくら零治さんが俺のこと好きだって言ってくれても、それはやっぱ無理じゃん?」
「確かに…、イデッ…」
妙に納得した様子で頷いた翔太郎の後頭部に、健太の鋭い平手が命中して、翔太郎は思わず頭を抱えた。