第9章 009
「二人が恋人関係にあったのは事実です。だからこそ、弘行さんは大野さんの立てた計画に乗ったんです」
「じゃあ…、ソイツも共犯だったってことかよ」
「誘拐に関しては…ですがね。推測の域を出ませんが、大野さんは自身を誘拐させることで、弘行さんと結託して、鮫島社長に身代金を要求するつもりだったんでしょう。つまり、鮫島社長の想いを知りながら、利用するつもりだったんです。ところが、土壇場になって弘行さんが裏切った。
恐らくですが、弘行さんは鮫島社長に対して、スキャンダルを餌に金銭の要求でもしたんでしょうね」
「口止め料…ってやつ?」
翔太郎からの問いかけに、無言で頷く成瀬と、そして顔を青くする鮫島。
当然だ、世界にもいくつかのホテルを経営する鮫島にとって、恋人が男だというだけならまだしも、その相手が会社の金を横領していたとなれば、致命的…とまではいかなくとも、相応のダメージを受けることは間違いない。
それを避けるため、鮫島は弘行の要求に応じるつもりだったが、話は拗れ、その結果…ということだろうと成瀬も、それから榎本も予想した。
そしてそれは、全くの的外れでもなく…
「あーあ、やっぱり場数踏んでる弁護士さんて凄いね。でもさ、ちょーっとだけ違うんだよね…」
前からギュウギュウと締め付けるように抱き付く鮫島を押し退けた大野は、襟元で無様に弛んだネクタイを解いた。