第9章 009
「お二人…いや、大野さんが立てた計画は、きっとこうでしょう…」
成瀬はスっと息を吸い込むと、リビング部分と寝室部分とを隔てるパーティションを移動させた。
「大野さんと弘行さんは元々恋愛関係にありました。ところが、何らかの理由で二人の関係にヒビが入り、大野さんは弘行さんが邪魔になった。そこで、以前から自分に対して好意を向けている鮫島社長に協力を頼んだ…」
そこまで言って成瀬はフッと鼻を鳴らすと、それまでの冷静ちんな様子からは一転、クスクスと笑い声を立て始めた。
「と、普通ならばそうでしょう」
「え、どういうこと…?」
「そもそも、会社の金を横領していたのは、弘行さん…なんて話は真っ赤な嘘です」
「え?」
「実際に横領していたのは、大野さん、貴方です」
予想もしていなかった事実に、翔太郎も健太も驚きと、そして困惑の表情を浮かべる。
「貴方は、会社の金を使い込んでいたのを弘行さんに知られ、脅されていた…違いますか?」
「え…? 意味わかんないんだけど…」
再び混乱し始めた翔太郎は、成瀬と大野を交互に見ながら、頭を乱暴に掻き混ぜた。
「えっと、つまり…。二人は恋人じゃなかったってこと?」
そして、やっとの思いで出した一つの答えを、成瀬は首を横に振って否定した。