第9章 009
その光景を、暫くの間眺めていた翔太郎だが、ふと我に返った瞬間、
「え、ちょっと待って? でもさ、最初は普通に話だけで済ませようとしたわけでしょ? だったら別に、誘拐の計画なんて立てる必要なかったんじゃ…」
今更ながらの疑問に気付き、首を傾げた。
すると成瀬が、
「そうなんです。単純に痴情のもつれであるなら、何もここまで綿密な計画を立てる必要はなかった筈なんです」
もっともだといった様子で頷いた。
「でしょ? なのにどうして…」
「簡単なことです。恐らくですが、弘行さんを殺害したのは、偶然でも何でもなく、計画的な犯行でしょう。つまり、最初から全ての罪を貴方達二人に被せるつもりだったんではないかと…」
「は、はあ? …っだよそれ…っ!」
榎本の推論に、真っ先に反応ささたのは、二人がキスをし始めた頃から苛立ちを隠せなくなっていた健太だった。
健太はドンと床を踏み鳴らして立ち上がると、今にも殴りかかる勢いで、大野のくたびれスーツの襟を掴んだ。
健太の気性の荒さを知っている翔太郎は、当然のように健太を止めに入るが、翔太郎にしたって健太と心境は同じわけで…
憤る健太を抑え込みながらも、沸々と湧き上がってくる怒りを、どうにかこうにか鎮めようと必死だった。