第9章 009
突然の大野の涙に、翔太郎も健太も一様に戸惑いの表情を浮かべたが、それでもまだ大野の心理が理解出来ないのか、翔太郎は俯いていた顔を上げた。
「あの、さ…。俺に誘拐の依頼してきたのがアンタだったとして、鍵は? さっきの話だと、関係者以外の人間が手に入れるのって…」
「その件に関しては私から説明しましょう」
言いかけた翔太郎を遮り、それまで沈黙を貫いていた榎本が、テーブルの上に並べられたカードキーを手に、スッと席を立った。
「まずこのカードキーの入手先ですが、先程もお話した通り、ここまで精巧に作られたコピーを作成することは、素人には不可能です」
「専門の業者にしか作れねぇってことだろ?」
「そうです、その通りです。でも彼にはそれが出来た。それはつまりどういうことか分かりますよね?」
「え、ひょっとして…?」
驚きの声を上げた翔太郎に、榎本は小さく頷いて見せると、足音を立てることなく大野の前まで歩み寄り、まるでマジックでもするかのように、二枚のカードを指で広げた。
「先月お会いしましたよね?」
「え…?」
言われて大野は記憶を巡らせた。
そして数秒考え込んだ後、
「もしかして銀行の金庫の前…」
思い出したように顔を上げた。