第9章 009
「え、でもさ、俺達がこの部屋に来た時には、もうあの人死んでたわけじゃん? 時間的に無理じゃない?」
「た、確かに…」
自他ともに認めるお調子者の翔太郎の、至極まっとうな疑問に、健太も大きく頷く。
ところが、そんな翔太郎の疑問を、成瀬は真っ向から否定した。
「簡単な話です。彼…弘行さんを殺したのは、大野さんではないからです」
「え、でも今自分が殺したって…」
「直接手を下したわけではないけれど…ということですよね?」
成瀬の鋭い指摘に、大野の表情が一瞬にして引き攣る。
その表情は、成瀬の推測が図星だと物語っていて、当然のことだが成瀬もそれを見逃すことはなく…
「あくまで貴方自身は計画を立てただけで、実際に手を下したのはおそらく、貴方に対して特別な感情を持っていて、貴方自身も同様の感情を持っている方、つまり…」
「恋人…ってこと?」
「憶測ではありますが、まあそういうことになるかと…。どうですか?」
心做しか弱くなったとは言え、それでも鋭さを隠しきれない成瀬に見上げられ、大野は観念したように拳をキュッと握った。
そして唇をキリッと噛むと、瞬きをすることさえ忘れてしまったかのように見開いた目から、ポロポロと涙を零し始めた。