第9章 009
その場にいる全員の視線が、ただ一人に注がれる。
「え、ちょっと待って? 意味分かんないんだけど…」
困惑したのは、なにも視線を向けられた“その人”だけではない。
翔太郎も健太も、一様に動揺を隠せない様子で…
「ちゃんと分かるように説明してくれ」
「そ、そうだよ。説明してよ」
混乱と同様で纏まらない思考をなんとかしたくて、翔太郎は頭を下げる抱え込み、健太はツンツンに固めた髪を乱暴に掻き混ぜた。
当然だ、何しろ成瀬が指を差したのは、他の誰でもない、誘拐された張本人である大野だったのだから。
「あ、あの…、ちょっと何のことだか…」
そして大野自身も、心底驚いた様子で目を見開き、フルフルと首を横に振っている。
「そうだよ、だ、だって、ソイツは俺らが………」
誘拐したんだ…
言いかけたところで、翔太郎は続く先の言葉を飲み込んだ。
大野を誘拐したことを口にすれば、自分達が罪に問われることを恐れたんだろう。
尤も、プリペイド式携帯電話に残されたメールの文面を見る限り、翔太郎と健太が大野の誘拐に関わっていることは明白なのだから、今更隠す必要もなければ、事実を偽ったところで何の効力も成さない。