第9章 009
翔太郎のプリペイド式携帯電話に電話をかけて来たのは、驚いたことに弁護士の成瀬だった。
成瀬は電波をふたつに折り畳んで閉じると、唇の端だけを軽く持ち上げフッと笑い、
「驚かせてしまってすみません」
平然と謝罪の言葉を口にした。
「あ、でも安心して下さい。この電話は、私の物ではないので」
「え…?」
「実はこの電話は、彼…つまり、このご遺体の彼が持っていた物でして…」
「どういうことだ…」
成瀬の言ってる意味が全く理解出来ない健太ではない。
ただ、状況を把握するのには、若干の時間が必要だった。
明らかに困惑の色を隠せない健太を思ってか、
「あちらでお話しましょうか」
健太をソファに座るように促した。
「お、おぅ…」
どうにも思考が纏まらない健太は、それ以上の言葉を発することなく、ソファに腰を下ろした。
当然、
「ねぇ、ちょっとどういうことなの?」
更に状況の飲み込めていない翔太郎が、健太の腕を掴んで説明を求めるが、健太自身がまだ困惑の最中にいるのだから、どうにも答えようがない。
「うっせー、ちょっと黙ってろ」
健太は翔太郎に言い放つと、ソファの上に胡座をかき、頭を抱えた。