第9章 009
「おい、どうした…」
電話を持つ手を震わせ、青ざめる翔太郎の肩を、健太が軽く揺するが、翔太郎は呆然としたままで、健太を振り向くことすらしない。
何が起きているのか、さっぱり把握出来ない健太は、苛立ち気味に舌打ちをすると、
「貸せ…」
翔太郎の手から、プリペイド式携帯電話を乱暴に取り上げた。
「もしもし? あんた一体何者だ…」
普段の喋り口調よりも、若干威圧感を含ませ、声も低くする。
すると、それまで憮然としていた鮫島が、ビクンと肩を震わせた。
それ程健太の物言いは威圧的だった。
ところが、電話口から返ってきたのは、至って冷静な一言で…
「は、はあ…? ちょ、ちょっと待て、どういうことだ…」
翔太郎と同じように、手を震わせ、顔を引き攣らせた。
そして携帯電話をパタンと閉じると、ソファを蹴倒す勢いで立ち上がり、ズカズカと足音を鳴らしてパーティションの前に仁王立ちになった。
すると、気配を感じたのか、パーティションの向こうから、同じくプリペイド式携帯電話を手にした成瀬が、柔らかな笑みを浮かべた顔を出した。
「少々半信半疑ではあったんですが、“まさか”でしたね」
成瀬の感情を見せない口調と、柔らかでありながら、冷ややかな目に、健太は一歩後ずさった。