第8章 008
「せーの…」
翔太郎の掛け声で、二人がかりで弘行の遺体をひっくり返す。
すると…
「あれ…?」
腕の部分に触れた翔太郎が、弘行の遺体をしげしげと眺めて首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いや…、なんかさ、硬いっていうかさ…、人形みたくなってない?」
「ああ、それなら死後硬直が始まっているんでしょう」
顔色一つ変えることなくサラッと言い放つ成瀬だが、聞かされた翔太郎はそれどころじゃない。
一気に顔を青くすると、弘行の遺体からパッと手を離した。
「え、えっと、死後硬直って、ドラマとかで良く聞くアレのこと?」
「そうです。ドラマなどでは、死後硬直がどれくらい始まっているかで、凡その死亡推定時刻を割り出されることも多いですね」
「へ、へぇ…、そうなんだ…」
淡々とした口調で語る成瀬の横で、翔太郎は顔を引き攣らせて苦笑する…が、何かを思い出したようにパンと手を叩くと、人差し指を成瀬に向けた。
「なんかさ、探してるんじゃなかったっけ?」
「ああ、そうでしたね」
成瀬は小さく肩を竦めると、弘行の腰の辺り…、スラックスの尻ポケットの上をスッと手で撫でた。
「やはりここでしたか…」
「え、なになに?」
覗き込んだ翔太郎の目の前で、成瀬はポケットに手を突っ込むと、何かを取り出した。