第8章 008
手帳を閉じ、成瀬が徐に席を立ち、弘行の遺体が横たわるベッドに歩み寄ると、静かに両手を合わせた。
そして、
「失礼しますね」
と声をかけると、首元までかけてあった布団を捲り、服の上から弘行の身体に触れた。
シャツの胸ポケットから、スラックスのポケット、それぞれに手を突っ込み…
目的の物が見つからなかったのか、小さく息を吐き出してから、
「すみません、どなたか手伝って頂けませんか?」
リビングに集まる五人には視線を向けることなく言った。
「誰でも良いの?」
「ええ、勿論です」
「じゃあ、俺でも良い?」
「ええ、お願いします」
最初に名乗りを上げたのは、やっぱり翔太郎で…
「あの、馬鹿が…」
健太が心の中で舌打ちをしたのを知ってか知らずか、パーティションで仕切られた向こうへと駆けて行く。
「ねぇねぇ、何をどうすれば良いの?」
「このご遺体の向きを変えたいんですが、私一人ではどうも力足らずでして…」
「なんだ、そんなこと? 任せて」
翔太郎は自慢げに胸を叩くと、ベッドの上に膝立ちになり、弘行の丁度背中の辺りに両手を突っ込んだ。
それを見て成瀬も翔太郎と同じように膝立ちになると、弘行の膝の辺りに両手を突っ込んだ。