第8章 008
成瀬は手帳のページを何枚か捲ると、小さく「なるほど」と呟いてから、一瞬榎本の方に視線を向けた。
その様子はまるで、成瀬が何やら榎本に向かって目配せをしているように見えなくもなく…
大野は苦笑いを浮かべると、「えっと…」と何かを思い出すような仕草をして見せた。
「何か思い出したことでも?」
「いやぁ…、思い出したって程でもないんですけど…」
「かまいません。何か気づいたことがあれば話して下さい」
成瀬に促され、大野は小さく頷くと、スッと息を吸い込んだ。
「俺、ここに来る前、何だか良くわかんないんだけど、眠っちゃってたみたいで…」
「では、ここに来たのは、大野さん自身の意思では無かった…ということですか?」
「まあ…、そうなるかな…」
「誰かに無理矢理連れて来られたって可能性も?」
「ま、まあ…、うん…」
大野の視線が一瞬、翔太郎と健太に向けられる。
視線を向けられた二人は、当然のことながら、大野の視線から咄嗟に視線を逸らすが、その口元は微かに引き攣っている。
「大野さんが目を覚ました時、この部屋には誰が?」
「それは、その…、掃除の人が二人…」
「他には?」
「他には…、弘行の死体があっただけで…」
「“死体”ですか…」
「はい、死体です」
成瀬の、メモを取る手がピタリと止まった。