第8章 008
健太に釘を刺され、しょんぼりと肩を落とし、ソファに腰を下ろした翔太郎に、
「もし何かありましたらこちらに。きっとお力になれると思いますので」
成瀬が名刺を差し出した。
翔太郎は受け取った名刺をツナギのポケットに入れると、「どうも」と頭を下げた。
「ところで、お二人はお見受けしたところ、清掃業者の方のようですが、従業員名簿を確認させて頂いても?」
「えっ…?」
「今後捜査していく上で必要になることなので。とは言っても形式的な物なんですが」
「えっと…、その…」
「何か不都合でも?」
「いや、そういうわけじゃ…。ねぇ?」
口では言ってみたものの、心中はそれどころじゃなく穏やかではない。
従業員名簿の照合などされては、二人が鮫島ホテルズの従業員でないことがしれてしまう。
しかも、二人が所持している従業員用のIDパスは、カードキー同様偽造されたものだ。
仮に大野が誘拐を疑わなかったとしても、それだけで十分な犯罪に当たる。
二人の顔からは、どんどん色が消え失せ、やたらと大きく、強く打ち付ける心臓の音に、目眩を起こす寸前だった。
すると、
「まあ、そんなことはどうでも良いじゃないか。二人の身元なら、社長である俺が保証しよう」
何を根拠にかは謎だが、鮫島が自信ありげに胸を叩いた。