第8章 008
「では、このカードキーを偽造したのは、セキュリティに関して深い知識と、技術を併せ持った人間…ということになりますね?」
成瀬の顔から、一瞬微笑みが消える。
それどころか、心做しか視線が鋭くなっているようにさえ見える。
「つまり、セキュリティ会社に勤める貴方も、容疑者の一人…と言うことになりますが…」
「そうですね。そう言えばことになりますね」
自身が疑われているにも関わらず、榎本は表情を変えることなく、背筋をピンと伸ばし成瀬を見つめた。
至って冷静に成瀬の意見を受け止めといるようだった。
反して鮫島は、ソファの肘掛をバンと両手で叩くと、
「き、き、貴様…いや、君、榎本君はこの私が信頼している人間の一人だ。その榎本君に対して疑いの目を向けるとは、けしからん!」
憤慨した様子で成瀬に向かって人差し指を向けた。
「社長、私はあくまで“可能性がある”と申し上げただけです。第一、私から言わせて貰えば、この部屋にいる全員が、容疑者なのですから。勿論、社長貴方も例外ではありません」
「な、何だと…?」
まさか自分が疑われるとは、露とも思っていなかった鮫島は、愕然とした様子でソファに腰を沈めた。
「俺が…この俺が、容疑者…」
「あくまで可能性の問題なので、お気になさらずに…」
言われても鮫島の耳には入っていないのか、鮫島は両手出頭を抱え込んだ。