第8章 008
「な、何事だ…」
動揺する鮫島の声が、光を失くした室内に響く。
ただそれもほんの一瞬のことで、すぐに天井のシーリングライトを含めた全ての照明が、瞬きをする間もなく灯された。
そして再び姿を現した榎本の手には、もう一枚のカードキーが握られている。
元々部屋の住人、鮫島が所持していた本物のカードキーだ。
榎本は、本物と偽物、二枚のカードキーをテーブルの上に並べると、
「この二枚のカードキーは、一見すればどちらも同じに見えますが、実は一枚は本物で、もう一枚は偽造された物です」
少々早口気味に言ってから、二枚を同時に手に取った。
「鮫島社長、この部屋のカードキーは、スペア併せて何枚ありますか?」
問われた鮫島は、
「俺が持っていた一枚だけだと聞いている」
一瞬の迷いもなく答えた。
「そうです。一枚しかない筈なんです」
「で、でもちょっと待ってくれ。この部屋の照明は、そのカードキーが無ければ点かない筈だろう? なのにどうして…」
一瞬天井のシーリングライトを見上げ、首を傾げた鮫島に、
「簡単なことです」
榎本は一切表情を変えることなく、黒縁眼鏡の縁を持ち上げ答えた。