第8章 008
出すべきか、それとも出すべきではないのか…
翔太郎は尻ポケットの中でカードキーを握り締めた。
何せ翔太郎が持っているカードキーは、本物と並べてみても、見分けがつかない程精巧に造られてはいるが、実際には偽造された物だ。
素人目ならば見抜けないだろうが、相手はプロの鍵師だ。
偽物だと見破られる可能性は、極めて高い。
ただ、このままカードキーを出さずにいるのも、返って不審に思われる。
どうしようか……
迷った翔太郎は、キュッと唇を噛むと、ポケットの中からカードキーを出し、榎本の手のひらに乗せた。
こうなったら一か八かだ……
その場にいる全員の視線が榎本と、そして榎本の手の中にあるカードキーに注がれる中、翔太郎は天井のシーリングライトを見上げた。
「何かきになることでも?」
成瀬が榎本に言う。
すると榎本は、翔太郎から受け取ったカードキーをテーブルの上に置き、
「その場を動かないで下さい」
と言い置いてから席を立った。
やはりロボットのような動きで入口ドアへと向かう榎本を、全員の視線が追った。
そして榎本の姿が見えなくなったと同時に、部屋の照明が全て落とされ、視界が闇に包まれた。