第8章 008
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会社から誂えられた物だろうか、榎本はロゴのプリントされたブルゾンのポケットを探ると、カードケースを取り出し、更にその中の一枚を抜き取った。
見たところ、スーパーかコンビニのポイントカードのように見える、どこにでもありそうな、極ありふれたプラスチックカードだ。
「例えばこのカード…」
榎本は取り出したカードを、二枚のカードキーの間に並べて置いた。
サイズはほぼ同じ…いや、寧ろサイズは同じだ。
「そのカードがどうしたと言うんだ」
「この三枚のカードは、縦横のサイズは勿論、厚みも同じです」
「そのように見えますね」
成瀬の同意を得た榎本は、ポイントカードだけを手に取った。
「このカードは、このホテルで使用されているカードキーではありません」
「あ、当たり前じゃないか。我がホテルのカードキーには、全てホテル名が入っているし、ICチップだって埋め込まれている」
「そうです。だから当然、カードキーとしての役割を果たすことは不可能なんです」
「と、当然じゃないか」
榎本が何を言いたいのか…、その真意を計り兼ねた鮫島の声が、徐々に大きさを増して行く。
ところが当の榎本は平然とした顔でカードキーをテーブルに戻し、部屋の中をグルリと見回した。