第1章 手紙
『総ちゃんへ
元気ですか?
寒くなってきたけど、風邪引いたりしていないかしら。
総ちゃんは優しくて強くて、とても良い子だけど、寂しがる事が苦手だから、そこが少し心配なの。
私自身が苦手で、ちゃんと教えてあげなかったから。
ごめんね総ちゃん。
今からでも間に合うなら、覚えておいて。
寂しい時は寂しいって、言っていいのよ。
悲しい時は悲しいって、言っていいのよ。
十四郎さんも近藤さんも、それをバカにするような人じゃないわ。
ううん、十四郎さん達だけじゃない。
総ちゃんが、自分の気持ちを正直に出しても良いと思った人なら、きっと優しい人のはずだから、恥ずかしがらないで言っていいの。
私は、この先もずっと聞いてあげられるか分からないから。
だから総ちゃん、周りの人と仲良くしてね。
総ちゃんに大事な人がたくさん出来ますように。』
手紙はそこで終わっていた。
沖田は立ち上がり、橘の木の下へ行くと手を伸ばして実をひとつもいだ。
そばでは山崎が脚立に上って、おばさんの指図に従っている。
その様子に少しだけ笑い、手にした実をがりりと噛んだ。
強い酸味が口中に広がる。
「すっぺっ。目に染みらぁ」
袖で目元を拭う沖田の頭上で、橙色の実が風に吹かれて静かに揺れた。