第16章 ❄️ 風
雄英高校の大きな校舎。
その裏にある学生寮。
そのまた裏には緑豊かな散歩道が伸びている。
しばらく進むと公園のような遊具は何も無く、ベンチが数個置いてある広間が姿を現すが、この場所を知る生徒は数少ない。
週末の暖かな晴れの日。入学してすぐに その数少ない生徒の1人となった少女が訪れる。
「あいつは………」
白い少女の他にもう1人、同じく入学してすぐにこの場所を見つけた少年。
桜が咲いている程暖かいと言うのに、首には髪と同じ色のマフラーを巻いている。
滅多に人に会うことは無いであろうこの場所。今会えるのは満開に近い桜くらいだ。
『こんな感じ…』
「…………。」
少年よりも先に来ていた白い少女はまだ、少年の存在には気が付いていない。
方手を前に掲げ、個性を使い、きらきら と白く輝く槍を形成する。
『よし…』
小さく微笑み、目を瞑る。
「………すげ…」
少女が目を瞑ると槍がくるくるとその場で回転し、辺りに少しだけ冷たい気流が起こる。
遠心力により槍からは細かい雪が飛び散り、春光に照らされ槍と同じくきらきらと輝いている。
次第に回転は速まってゆき、気流の動きは風と呼べるほどの強さへと変わる。
『…………っ!』
少女が目を薄く開きばっ!っと手を大きく開くと、一気に風が強まった。
ひらひらと舞い落ちる桜の花びらが舞い上がり、輝く雪と混ざり合う。
交わることのない2つの季節の象徴が共存する小さな世界の中心に、輝く髪をなびかせる少女。
目の下に濃い隈をもつ少年は、しばらくの間、その光景に目を奪われ動けずにいるのだった。