第2章 ❄ 空の上の内緒話
砕けた雪の結晶から意識を外し再び掌の上に集中し始めると、それらはすっと溶けて消えてしまった。
新しい結晶は、先程より強度の高いもの。
その分、少し小さめ。
同時に、8つ。
車内にぷかぷか浮かせて遊ぶ。
「零、酔うんじゃない?」
暫く動かしていると、そう母に心配された。
『ん~そうだね。』
母の言葉に納得し、観覧車のようにクルクル回していた結晶達を消す。
「もうすぐ街に入るから、飛行機で食べるお菓子でも買おっか。」
❄❄❄
空の上、チョコレートを口に入れる親子。
憧れの場所への距離は縮まってゆく。
口の中でチョコレートを溶かしながら、
小さな顔に次第に緊張の色を見せ始めた娘に気がついた母は小さな声で話しかけた。
「ここまで来たら心配したって仕方ないさ。楽しめないよ?」
『楽しむの??入試を??』
母の発言に驚き、雲を見ていた顔をバッと向ける。人生が決まると言っても過言ではない受験を楽しむなんて。想像もできない。
「そ、リラックスしてなきゃ解けるもんも解けない、できることもできないべさ。実技試験ではきっと個性を思いっきり発揮して、人に見て貰えるんだよ。そんなこと今まで滅多になかったっしょ。楽しみじゃない?結果を残すだけより楽しんできた方がお得だし。それに…」
『それに…?』
母は娘の耳に顔を近づけ、更に小さな声で、
「素敵な出会いがあったりして!」
何を呑気なことを…
『それは入学してからでしょ。』
2人してくすくす笑う。
『でも確かに、言えてるね。』
「うんうん、いいと思った子は取られる前にすぐ捕まえなさいよ。」
『違う、リラックスの方!』
再びくすくすと、笑い合う。
胸に、じわっと 春に雪が溶けていくような感覚が広がる。
「零にはできるって信じてる。信じる。」
(あの時この子に出来なかったこと…もう一度………)
『お母さん…』
『できるって、男が?』
「あははは、違う違う、受験の方!」