第2章 聞こえたならどうぞ耳を塞いで
喉奥から絞り出すように濡れた声で放たれたその言葉が、胸に染み渡る。ただしがみつく。百年、待った。すぐ戻るからここで待っていろ、と。置き去りにされた五番隊の隊首室に、いつまで経っても彼は帰って来なかった。生死不明、行方も不明。知らされた事実が信じられなくて、ずっと待っていた。三番隊の隊長になってからも、毎夜ずっと、五番隊隊舎の門の前で、夜が明けるまでずっと。卯ノ花隊長にちゃんと寝なさいと言われた。眠れないのだと答えた。京楽隊長にもう帰って来ないよと言われた。平子隊長は約束を守る人だと答えた。浮竹隊長にいつまで待つのかと問われた。帰ってくるまで待つのだと答えた。本当はもう、帰って来ないのではないかと諦めていた。それでも、もしかしたらという希望があった。
「……百年ぶん、構ってくれんと、許さん」
「…おん」
「…私ん青春、隊長の所為でパァや」
「まだそんな年くってへんやろ」
「百年待ったんやもん、」
「おおきにな。…せやけど、百年の間に変わりすぎちゃうかァ?」
「何やの、私が隊長なったん意外なんです?」
「そっちやあらへんわボケ。……どえらい美人に化けたもんや、ほんま」
少し身体を離してぐしぐしと私の涙を拭ってくれた彼は、私の知らない顔で笑う。切なさを含んだその大人の顔をじっと見つめていると、彼の片手に瞼を覆われた。ふ、と、吐息を近くに感じたと思えば、唇に柔らかな感触が掠めていく。
「たいちょ、」
「もうお前を置いて何処にも行かへん。約束する。せやから---…、……」