第2章 聞こえたならどうぞ耳を塞いで
流石乱菊、目敏い。ええんよ、と答え、目を伏せた。百年ぶりに見た平子隊長は相変わらずで安心した。生きていてくれて良かった。それだけで良いと思った。声のかけ方がわからなかった。私に見向きもしない彼に寂しく思った。期待していたのだ。彼が私に声をかけてくれることを、成長した私の姿を見て驚いてくれることを、望んでいた。だけど彼が真っ先に向かったのは総隊長の所で。私なんて、眼中に入ってなくて。平子隊長のことを忘れた日なんてなかった、でも、彼はそうではないのだと悟り、浅はかな期待をした自分を恥じた。考えてみれば当然なのだ。私にとっては初めての隊長で、初めて理解してくれようとした大人で、共に過ごした時間は短かったけれど何もかもが特別だった。彼にとっては数多く存在する部下のうちの一人でしかなかった、私が子どもだったから気にかけてくれていた、---ただそれだけの話なのだ。
「なんや冷たいやっちゃなァ。百年ぶりに会えた元隊長に挨拶もないんかい」
後ろから、懐かしい声が聞こえる。冷たいのはどっちだ。私には話しかけてくれなかったくせに。視線すら寄越してくれなかったくせに。イヅル達の手前、みっともなく喚きたくなくて、グッと飲み込み手を握り締める。へらりと笑って、乱菊に帰ろうともう一度言う。
「おい、無視すんなや」
「あーあ、帰ったらすぐ残務処理に追われるんやろね、嫌んなるわァ」
「…市丸」
「せや、虚圏におる白哉クン達てそのまま尸魂界に戻るんやろか?日番谷クン何か聞いてはる?」
「市丸!」
強い力で肩を掴まれ、無理矢理彼の方へと身体を向けられる。
「こんのクソガキ、無視すんなって言って---!」
私の顔を見て、彼が言葉を飲み込んだ。嘸かし酷い顔をしているのだろう。ああ、だから泣き顔なんて見られたくなかったのに。最後まで無視してくれたら良かったのに。どうして、今なの。噛み殺したはずの嗚咽が漏れる。そんな私を、彼が強い力で抱き締めた。耳元から聞こえる心臓の音。彼が生きていることを改めて実感して、更に涙が溢れ出る。
「……すまんなァ、市丸」
彼の声が震えている。彼の胸に押し付けられ、その表情を見ることは叶わない。
「百年も待たせて、っ…悪い隊長やなァ俺、ホンマにすまん…っ!」