第7章 息をしたまま死ね
先日行われた教員の飲み会で、私は見事に潰された。元々疲れていたこともあり、酒豪の乱菊にあれよあれよと飲まされ、気付いた時には朝だった。きちんと自宅で起床したため、記憶はないが醜態は晒していないだろうと思っていたのだけれど。
「覚えてへんけど、ちゃんと自分ん家で目ェ覚ましたで?」
「あら、紳士なのね」
「…どういう意味や、それ」
「潰れて熟睡するあんたを藍染先生が連れて帰ったのよ。てっきり、お持ち帰りコースだと思ってたんだけど…。ま、何にせよ教員の間でもあんたら2人は噂になってるわよ」
「はぁ!?」
初めて知る事実に、思わず立ち上がる。何もされてないの?と目をキラキラさせて詰め寄る乱菊を押しのけながら、必死に記憶を手繰り寄せる。何もされていない、とは思うのだが。服は少しの乱れもなくそのままであったし、起きた時には当然だが私一人しかいなかった。そも、彼が私のような女に手を出すとも考えられない。そう告げると、乱菊は呆れ顔で溜め息を吐いた。
「愛美、あんた……相変わらず鈍いわね」
「え、」
「まあいいわ。兎に角、あんたにその気がないなら気を付けなさい」
「気をつけろって言われても…」
「危機感覚えろって言ってんの。あと、あんたちょっと熱あるんじゃない?呼吸が不規則だし、目が虚よ」
あんまり無理しないでねと言って、乱菊が冷えピタと薬を手渡す。腐っても保険医だ、バレていたことに苦笑を零し、保健室を後にした。社会科準備室へ戻る為、3年生の廊下を歩く。私に気付いた生徒達が手を振ってくるのを笑顔で返しながら、3年生は受験モードの所為か比較的真面目に授業を受けているなと感心する。そうしてある教室で、藍染先生の姿を見つけた。漢文の授業であるらしい。聞き取りやすい、低くて通りの良い穏やかな声。姿が見えないように壁に背をつけ、その声を聞く。熱の所為か、だるい身体によく響く。苦手に思ってはいるものの、その声は嫌いではなかった。一呼吸ついて、少し教室を覗いた。当然であるが綺麗な板書。生徒は皆一言も聞き漏らすまいと集中して話を聞いてノートを取っている。授業をしている彼の姿には、いつものゾッとするような感覚を覚えない。(嗚呼、教師、天職なんやろなァ、)言葉の一つ一つから、授業の運び方から、生徒へ向ける視線から、生徒への愛情を感じる。
