第7章 息をしたまま死ね
吸い終えた彼が、私の手から煙草を奪う。いつの間にか火が消えていたらしい。それを携帯灰皿に入れながら、彼がゾッとするほど綺麗な笑みを浮かべて、私の頭に触れた。髪に灰がついているよと言って触れるその手よりも、声色や表情に。彼のその全てに、全身が凍り付いたように固まってしまう。
「楽しい1年になりそうだ」
言って、藍染先生は去って行った。
それからというものの、彼は何かと私に構ってきた。仕方のないことではあるが、受け持つ学年が同じだということもあり、また隣のクラスだということもあり、彼と接触する機会は多かった。彼は表向きの人の良さから着々と生徒や教師の人気を得て、そうして信頼を勝ち得ていた。私だけが彼を苦手に思っている。まるでそれを楽しむかのように、彼は私に近づいてくる。はっきり言ってストレス以外の何物でもない。おかげで煙草の本数が増えてしまった。
高校2年生ともなると、大学進学に向けた活動が取り入れられる。大学訪問や教員向けの説明会に行かなければならないことも多かった。そうして、その場合、大抵私と彼がペアにされるのだった。そのお陰か、今では普通に話せる程度にはなった。有り難くないことに藍染先生は時折私のことを名前で呼ぶようになった。他の先生方からは仲が良いと思われているけれど、それでもやはり、私は藍染先生のことが苦手なままだった。
「あんたと藍染先生、生徒の間で噂になってるわよ」
空き時間に保健室を訪ね、乱菊と他愛ない話をしていた最中、そう言えばと爆弾を投下される。飲んでいたアイスコーヒーが気管に入り、咳き込む。
「ないない。ないないないない」
「そうは言ってもねぇ。だってあんたと藍染先生、何かと一緒に居るじゃない。ほら、こないだの大学訪問だって」
「あんなん不可抗力や。私かて好き好んで藍染先生とペア組んだわけやない。組まされたんや」
「こないだあんたと藍染先生が一緒に車で帰ってたって目撃証言もあるのよ」
「うぐ…生徒に見られてたんや…。あれは、仕事が長引いて教員の飲み会に遅れそうやった時に、偶々藍染先生もおって、乗せてってもろただけや」
「ほほーう。じゃ、あんたあの飲み会で潰れた後のこと覚えてる?」