第7章 息をしたまま死ね
悲鳴を上げる生徒に少し笑って、教室を出た。にぎやかで積極性のある生徒が多い良いクラスだ。恐らくだが、砕蜂先生がこのクラスの副担なのは私のゆるさと帳尻を合わせるためだろう。彼女は美人さんだし隠れファンも多いが、些か厳しすぎる。私もたくさん説教を喰らう未来が目に見えていて、苦笑いしながら、屋上へ出た。ポケットから煙草を取り出しジッポをつける。フェンスにもたれかかりながら、午後に行われる学年会議の概要が書かれた用紙を取り出した。この学校の教師で、喫煙者は現在私しかいない。喫煙仲間であった化学の浦原先生は今年で赴任してしまったため少し寂しい。煙を吐き出しながら、まあ1人で吸うのものんびりできて良いかと思っていたその時。鈍い音を立てながら、屋上の扉が開く。
「……おや」
扉から姿を現したのは、怖い人だと数時間前に思ったばかりの藍染先生。極力関わりたくないと思った矢先にこれか。顔には笑みを貼り付けたまま、内心溜め息を吐く。そんな私を知ってか知らずか、彼は私の側にやって来た。
「市丸先生、でしたね。今年度から赴任してきました、国語科の藍染です。よろしくお願いします」
「…知ってはるかもわからんけど、社会科の市丸いいます、よろしゅう」
それから二言三言、他愛ない話を交わす。彼は隣のクラスの2年F組の担任であるらしい。そう言えばそうだった。あろうことか同学年の担任、そして隣のクラスであることに顔がひきつる。そうして、薄々抱いていた違和感を口にした。
「藍染先生、私に敬語使わんでええですよ。見たとこ貴方んが歳上やし、…なんや敬語使ってるん似合いまへんわ」
作り物じみている彼の像が、敬語によって更に作り物らしさを増しているような気がした。藍染先生は一瞬動きを止めて私を見る。そうして、笑った。その微笑に、彼の本性を見た気がして、少し退く。やはりこの男は不気味だ。
「それじゃあ、遠慮なく。---親任式の時から、私は君に興味を持っていてね」
左手に持っていた煙草の灰が落ちる。
「君は私を観察していたね。そしてその結果、私を警戒している」
「……観察してたんは、貴方かて同じですやろ」
「そうか…それも気付かれていたか。初めてだよ、一目で私の本質に気付かれたのは」