第4章 黒白の背反二律
「…どうせ死ぬ思うて何も言わず去ったもんやから、みんなに顔合わせるの怖いねん」
「……自業自得だろ」
「せやね。せやけど、どうしよて思った時にな。一番最初に頭に浮かんだんが、キミやってん」
そう言って、市丸はいつものように、困ったように笑う。---生きていた。もう二度と会えないだろうと思っていたこの女が、生きていて、俺の元に会いに来てくれた。その事実が、何故だかとても嬉しくて。いつも与えてばかりで救ってばかりで、その後は放置して勝手にどこかへ消えてしまうこいつが、戻って来たのだ。
「…そんな顔せんといてぇな」
言って、俺の仮面に口付けを落とす。仮面の何を気に入っているのかは知らないが、こいつの癖みたいなものだった。ずっと嫌がっていたはずのそれが、今は不思議と嫌ではない。むしゃくしゃした気持ちは既にどこかへ消え去ってしまっていた。
「…で、テメェはいつまでここに居座る気なんだよ?」
自分から抱き締めたという事実が気持ち悪くて、羞恥から赤くなる顔を見られたくなくて、誤魔化すように後ろから抱え込んだ。俺の足の間で大人しく座っている市丸は、のんびりと景色を眺めている。
「んー、戻る気ィせんのんや」
生死不明、行方不明ってことでええんちゃう?---いけしゃあしゃあと言ってのけるこいつに溜め息を吐いた。こいつのことを血眼になって探しているであろう死神達に同情する。
「もうずっと此処おろかなて思うてるんやけど、どう?」
「は、」
「グリムジョーもご主人様おらんと寂しいやろ。キミん暇つぶし相手になろかな」
「何度も言わせんな、犬扱いやめろ!」
相変わらずムカつく市丸の耳を加減無しで引っ張る。いい加減学習しやがれ。
「もー、DVやめてぇな。こない暴力的な旦那様やと先が思いやられるわァ」
「……誰が誰の旦那サマだって?」
頭湧いたのか。耳を引っ張っていた手を降ろしてやる。ブツブツ文句を言いながら、市丸は身体を翻し、俺を見てにこりと笑った。
「虚圏居座るつもりやし、ここ暇やん。もう十刃もほとんどおらんやん。ほんなら私とキミん二人でずっと過ごす訳やろ?夫婦みたいなもんやないの」
「だっ、誰がテメェと…!」
「えー、…だめなん?」